隠れた名作映画!!メキシコ版パンズラビリンス「ザ・マミー」
どうも。
もう11月とかマジ?ありえない、何かがおかしい。と毎日思ってる人です。「体感3日で2020年終わった」って文章がブログの下書きにあるんだけれど、あながち間違ってない。
361日前にこのブログ始めたんだよ。1周年むかえちゃうよ。
そんなこんなで、今日は世間に知られてないけれどもっと評価されていいと思っている映画「ザ・マミー」について、若干ネタバレありで書いていきます。
まだ作品観てないよって人は、目次使ってくださいな。
『ザ・マミー』
「未体験ゾーンの映画たち2019」で公開されたメキシコ映画。
原題は「VUELVEN/TIGERS ARE NOT AFRAID」。
監督・脚本はイッサ・ロペス。
【登場人物】
- エストレヤ(パオラ・ララ):行方不明の母を待ち続ける11歳の少女。学校の先生からもらったチョークを、「3つの願い」に見立てて使っている。母の幽霊が見え、声が聞こえる。
- シャイネ(ホアン・ラモン・ロペス):ストリートチルドレンのリーダーの少年。母を「フアスカス」に殺され、顔には火傷の痕がある。フアスカスへの復讐を強く望んでいる。エストレヤの母が攫われた現場を目撃したらしい。
- カコ(イアニス・ゲレロ):町のギャング「フアスカス」のメンバー。龍の飾りがついた銃と携帯を持っていたが、シャイネに盗まれる。
- チノ(テノッチ・ウエルタ):黒い噂が絶えない政治家。「フアスカス」と繋がっている。
【あらすじ】
麻薬戦争中のメキシコ。
銃撃事件が起こり、学校から早く帰った11歳の少女エストレヤ。しかし、母親は行方不明に。1つ目のチョークを使い「母に帰ってきてほしい」と願ったエストレヤは、母の幽霊に悩まされるようになる。
そして、家に泥棒に入った少年シャイネ、モロ、ポップ、トゥッシの仲間になる。
ストリートで暮らす彼らは、町のギャング「フアスカス」に家族を奪われた孤児だった。エストレヤの母も「フアスカス」に攫われたのだと、シャイネは言う。
ある日、モロがフアスカスに攫われる。エストレヤはモロを助け、執拗に追ってくるカコを殺すためにアジトへと向かう。シャイネから銃を渡されたエストレヤだったが、2つ目のチョークを使い「殺したくない」と願う。
しかし、カコは何者かによって既に殺されていた。
突然ヘビが出てきて、驚いて発砲してしまうエストレヤ。監禁されていたモロを助け出すが、発砲音から、エストレヤがカコを殺した英雄だとシャイネたちは思い込む。
その日の夜、再び母の幽霊が現れて……
【ネタバレ上等で書く感想と考察】
未体験ゾーンの映画たち2019年公開作品で、アメリカの大手映画レビューサイトRotten Tomatoesで満足度100%をたたき出した映画。
しかも、ギレルモ・デル・トロ、スティーヴン・キングといった大物たちが大絶賛!!にも関わらず、やはり未体験ゾーン発というかなんというか、日本では知名度すら危うい感じになってる。
すごくいい映画だから見て欲しいんですよ、ほんと。
「原題邦題戦争、ここに勃発」
原題は「VUELVEN」。スペイン語で”戻る”とか”再び”って意味らしい。英題は「Tigers are not afraid」、”トラは恐れない”って意味。で、問題なのが、邦題の「ザ・マミー」。
ママの幽霊がキーパーソンだから、このタイトルなのはわからなくもない。ただ、トム・クルーズ主演の映画とのタイトルか被ってる。これはよろしくない。
2017年公開の「ザ・マミー/呪われた砂漠の女王」のこと。「ザ・マミー」を見ようとすると、トム・クルーズが出てくる。しかも、どっちもホラー映画。
違う、そっちじゃない。
こっちは、ママ(mommy)の幽霊とストリートチルドレンのメキシコ映画だから!!トム・クルーズも、ミイラ(mummy)も出てこないから!!
公開時期がそんなに変わらないし、同じホラーだからって、タイトル詐欺してあわよくば~みたいな感じにするのやめてくれ。そういうとこだぞ、B級映画界。
「パンズラビリンス要素」
作中で、3つの願いとか、トラに関する話が沢山出てくる。おとぎ話みたいなのも沢山出てくる。原題の「TIGERS ARE NOT AFRAID」にも納得。
序盤では、学校の授業で物語を考えるエストレヤが、トラになった王子様の物語を作ろうとしたり。ママが生きてた頃、自分はお姫様じゃなくて戦士だって話をしたり。
エストレヤが「森から連れられてきて置き去りにされて、トラは可哀想だ」って言うと、シャイネが「悪いことは全部終わったからトラは幸せだ」「トラは絶対に恐れない王様なんだ」って答えるシーンもある。
なんか、過酷な現実を生きるストリートチルドレンたちが主人公なんだけれど、そういう夢物語を入れることで、まだ幼い少年少女なんだって思い知らされる。
でも、ギャングが大手を振って歩いてる世界で、発砲事件は日常。油断すると攫われるし、その先に何があるのかはわからない。警察も信用できない。そんな中でストリートチルドレンとして生きて、ママの幽霊にも襲われるエストレヤの現実は過酷。
シャイネたちも全員家族を失ってる。
おとぎ話に頼らないと生きていくのが難しいくらい現実が過酷っていうのは、ギレルモ・デル・トロ監督の「パンズラビリンス」と同じなんだけれど、現実もおとぎ話にも救いがなさすぎる。あ、パンズラビリンス大好きです。
モロが死んで、エストレヤがカコを殺したんじゃないってわかってからは、シャイネもどこか諦めた雰囲気だし。エストレヤのママが殺された動画を、エストレヤが見るっていう残酷過ぎるシーンもあるし。
あまりにも、子供たちにとって救いのない世界。
その報復を、幽霊たちがエストレヤの代わりにやってくれるんだけれど、それもどこか物悲しい。
エストレヤとシャイネが「さよなら、クソガキ」って言い合って、シャイネは復讐のために建物の中へ、エストレヤはトラの幻想を通り過ぎて建物の外へと歩んでいくのも、結局は生と死は隣り合わせ、広い世界の裏側には炎に包まれた死の世界があるっていうイメージに見える。
見ていて、本当に胸が苦しくなる。
「3つの願い」
「ザ・マミー」に出てくる3つの願いは、シャルル・ペローの童話「3つの願い」でも、「アラジン」のランプの精への3つの願いでも、ましてやW.W.ジェイコブズの「猿の手」の3つの願いでもなくて。
あぁ、でも、「猿の手」に似てるかも?
猿の手は、願いを叶えた代償に大きなものを失うんだけれど、「ザ・マミー」のチョークを使った3つの願いも、最悪の形で願いが叶う。
- 「ママ、帰ってきて」=幽霊になったママが帰ってくる。
- 「殺したくない」=標的はもう死んでる&銃の飾りがヘビになる&命を狙われる。
- 「シャイネの火傷痕が消える」=火傷の痕の上を撃たれて、銃創と血で見えなくなる。
願いが叶っても、まったく嬉しくないんですけど?
幽霊のママは、復讐のために娘を利用する気だし。別れを告げて形見のブレスレットを渡したいってのも、娘を守りたいってのもあるけれど、がっつり復讐する気ですよねー?
殺したくないっていうのは、まぁ、死人は殺せないから叶ったけれど。殺したと勘違いされるようにするとか、願いを叶えてる相手、性格悪い……。
最後の願いは、特に辛い。出会った時から、シャイネとエストレヤは表裏一体みたいな感じだったし、エストレヤの嘘と、エストレヤのママの死を見せちゃったこと、モロの死が重なって、シャイネの生への執着が消えちゃった感じもしていたけれど。
悪魔か!死霊館のごっつい悪魔シスターが願いを叶えて以下略
「ちゃんとホラーしてるよ?」
ストリートチルドレンの過酷な生き様、麻薬に政治家にギャングといったメキシコの闇ばかりが見えて、ホラー部分が見えなくなってるけれど、実はかなりがっつりホラーしてる。
モロが死んでからは、モロの幽霊と動くトラのぬいぐるみが出てきて、可愛らしく見えるけれども!!
エストレヤの口からママのブレスレットの鳥が出てきたり、地面から出てきた大量の手に追われたり掴まれたり、紙コップみたいな入れ物から声以外のものが出てきたり。
あと、序盤に学校付近で発砲事件が起こって帰宅するエストレヤをずっとつけてくる、血みたいな何か。あれ、ママの念なのかな?延々とついてくるの、監督のこだわりを感じる。
死体部屋でママとエストレヤが再会するまでは、ずっと憑いてきてるから。あれって、結局エストレヤを守ってた気がする。(当社比)
でも、死体置き場の腐臭のする部屋に落ちたり、再会したママの腐敗具合だったり、やっぱりホラーはホラーだよ。
【最後に】
なんやかんやで、子役の演技とか存在感が光る作品。あと、メキシコ怖い!!ってなる。がっつりなホラーを期待すると肩透かしを食らうから、ダーク寄りのメキシコ版パンズラビリンスくらいの期待値にしておくのがおすすめ。
あと、社会派作品は好きだけれど、ホラーは無理って人にはゴリ押ししたい。
スティーヴン・キングの小説「シャイニング」「デスぺレーション」、ギレルモ・デル・トロの「MAMA」「ダークフェアリー」「パンズラビリンス」は子供が重要な役割を担ってるから、そういう作品好きな人には好まれそう。実際、私も好きな小説&映画だし。
なんやかんやで、まぁ、それくらい気に入ってる作品。あと、動くトラのぬいぐるみ欲しいんだけれど、どこで売って以下略